「もう一度、学びたい。」
その思いが本気になったのは、50歳を過ぎてからだった。
若いころは、勉強が得意だったわけではない。
学生時代はアルバイトに明け暮れ、授業中も頭の中は次のシフトのことばかり。
ただ一つ、興味を持ったのがプログラミングだった。
「コンピュータって、命令ひとつで動くんだ」と知ったとき、
胸の奥に少しだけ火がついた。
とはいえ、その火は小さく、現実の忙しさにすぐかき消された。
当時、簿記3級だけはなんとか取得した。
でも、憧れだった「基本情報技術者試験」は見事に不合格。
“難しい世界だな”と思いながら、社会に出て働き始めた。
そして気づけば、仕事中心の生活になっていた。
あのときやりたかったこと、学びたかったことは
いつのまにか“過去の話”になっていた。
30歳のとき、再びその試験に挑んだ。
理由は特別なものではない。
ある日、若手社員が勉強している姿を見て、
「自分も、まだできるんじゃないか」とふと思ったのだ。
夜、仕事を終えてからの勉強はきつかった。
でも、やればやるほど少しずつ手応えがあった。
そして、30歳でついに合格。
通知を見たとき、涙が出た。
社会人になって初めて、“努力が実を結んだ”という感覚を味わった。
あれから20年。
仕事も家庭も、責任が重くなり、日々はあっという間に過ぎていった。
だが、50歳を目前にして、またあの“学びたい”という感覚が戻ってきた。
もう資格を取るためではない。
何かを覚えること、理解すること、その行為そのものが楽しい。
学生時代にやり残した“学び”を、今だからこそ味わいたいと思った。
だからこの場所──「4学年Bクラス」をつくった。
ここは、年齢も肩書も関係ない、誰でも入れる教室。
授業は試験勉強だけじゃない。
AI、家庭菜園、パソコン修理、日々の小さな挑戦。
どんな分野にも「学び」があり、「気づき」がある。
失敗も成功も、全部ひっくるめて“授業”だ。
銀六は先生ではない。
むしろ、まだまだ現役の“生徒”だ。
挑戦して、失敗して、また挑戦して。
その繰り返しが人生だと思っている。
学ぶのに、年齢制限なんてない。
そして人生は、挑戦し続けるものだ。
資格に落ちた学生時代も、バイトで必死だった青春も、
そのすべてが今につながっている。
50歳を超えても、学ぶことに遅すぎるなんてない。
むしろ今だからこそ、わかることがある。
銀六は今日もノートを開く。
過去の自分と向き合いながら、次のページに何を書くかを考えている。
“人生の学び直し”は、まだ始まったばかりだ。